大学は利益を追求することが目的である民間の企業とは違い、教育をする場です。こうした位置付けから、大学の学生募集には「わざわざ広告を打つものではない」という風潮が以前は存在していました。
しかし、18歳人口が減少期に入った今、受験者数の減少は大きな課題となり、大学側も受験生に「入学したい!」と思わせるような広報活動が必須となっています。
新型コロナウイルス感染症の影響でIT化が急速に進んだ背景もあり、一人1デバイスが当たり前の時代となりました。動画やSNSが学生にとって親しみのあるツールとなった今、これを広報活動に活用しない手はありません。
今回は、大学広報活動における動画の活用術について、解説します。
入試広報と大学広報の違いから見る「入試広報」の位置付け
まずは、「入試広報」と「大学広報」の違いを明確に理解しましょう。
入試広報とは、大学を受験する人数に直接関係する広報で、大学広報は大学のブランディングを意味します。
○入試広報
受験生に受験を促進するための広報活動。
対象となるのは大学受験者とその保護者や、高校生など。
○大学広報
社会における大学のポジション作りをするための広報活動。
自校ならではの強みは何か、どういった特色があるか、入学後の学生生活、卒業生の活躍なども含めて、大学のブランディングを実施する。
対象となるのは受験生に限らず、社会全体。
大学における動画活用の現状
先ほども紹介したとおり、近年入試広報においてもデジタル化が必須となっています。
中でも動画による広報活動は、いま大変注目度の高い手法です。
その理由は、受験者層となる年代にとって、身近かつ魅力的なツールであることが挙げられます。
ナイル株式会社が運営する「Appliv TOPICS」にて実施した動画配信サービスに関するアンケート(2023年8月時点)では、動画配信サービスの利用について10代は「ほぼ毎日」利用していると、全体の69.06%が解凍しています。
また、保護者世代である40代、50代においてもほぼ毎日との回答が40代では36.53%、週数回との回答が26.94%、50代でほぼ毎日との回答が32.58%、週数回の回答が25.79%という結果となりました。
40代、50代ともに半数の人は週に数回動画配信サービスを利用しているという結果となり、利用頻度の高さが伺える結果となっています。
この数字はデジタルデバイス普及、新型コロナウイルス感染症の影響でIT化が急速に進んだことを表しているといえるでしょう。
参考:ナイル株式会社「動画配信サービスを4割以上が毎日利用10代は約7割 視聴デバイスはスマホが最多 60代はパソコンがスマホを上回る(Appliv TOPICS調べ)」
では、大学側の動画の活用状況はどうなっているのでしょうか。
コロナ対応として、ほとんどの大学ではオンライン授業を導入しました。
これまで対面での授業を基本としていた大学もオンライン授業を取り入れ、動画を使った講義も実施されるようになったのです。
オンラインを用いたコミュニケーションが効果的であること、学生世代の子どもたちにとって動画などを用いた授業は受けいれられやすい傾向にあることを、大学側も実感する経験となりました。
これからの大学には教育活動をはじめ、広報活動などさまざまな取り組みに動画などの活用が求められることが予測されます。
入試広報に動画を活用すべき理由
こうした社会背景を受け、入試広報にも積極的に動画を導入する傾向が強まっています。
例えば大学のプロモーション動画は、デジタルネイティブ世代である受験生には特に高い効果が期待できます。
入試広報は動画を配信することで、受験生やその保護者に身近な存在としてアピールするとともに、音楽や映像で表現の幅を広げると大学のブランディングをしやすくなる効果が期待できるのです。
具体的には、どのような効果が期待できるのかを見ていきましょう。
動画に慣れ親しんだ世代にアピールしやすい
受験生である10代は、先述のとおり動画に慣れ親しんでいる世代です。
この世代はWebサイトやパンフレットなどの文章だけの情報では、一読しても実際の大学生活をイメージしにくい傾向にあります。
ひとつのカルチャーとしてしっかりと動画が浸透している世代へのアピールとして、動画配信は大変有効です。
入学後の姿を想像してもらいやすい
動画を配信することで、在校生の様子や話を分かりやすく、簡単に受験生に伝えることが可能です。
「自分が実際に入学した後の姿を想像できる」というのは、大きなモチベーションになります。
大学生活を楽しんでいる在校生や、卒業後活躍している先輩の話などを随所に織り込むことで、受験生の心を掴むことができるでしょう。
全国どこでも、離れた地域の受験生でも視聴可能
動画の配信後は、日本中、世界中の人が自分の好きな時間にいつでも視聴可能です。
例えば、保護者の仕事の都合で海外にいる方や、外国人の方で日本の大学に進学を希望している方などにも、視聴してもらうことができます。
基本的に大学のキャンパスで実施される学校説明会などは、その場所に足を運ばなければ参加できませんが、動画ならさまざまな理由で会場に足を運べない人にも、大学の魅力を広く伝えることができるのです。
入試広報用動画の活用例
では、実際の活用事例を見ていきましょう。
YouTubeチャンネル
大学がYouTubeのアカウントを取得して動画をアップするこの方法は、受験生がチャンネル登録を行うことで継続して大学に関する情報に触れることが可能となります。
常に大学の情報に触れてもらうことでファンになってもらいやすくなるため、大学側は継続して情報発信をしていきましょう。
○YouTubeチャンネル活用事例
和光大学の入試チャンネルでは大学紹介をはじめ、入試に関する説明や、模擬授業動画などを公開しています。
学習の自由意志と学生の個性を尊重する和光大学ならではの専門性・総合性を両立して高めていく取り組みや、少人数教育といったシステムを解説する動画となっています。
オウンドメディア
大学のオウンドメディアは、受験や大学のイベントをはじめ、大学が展開している学部の情報や卒業生が活躍する分野に関する記事、研究内容やサークル情報などキャンパスの様子を伝えるSNSやブログやコラム、Webマガジンなどが一般的です。
大学の公式サイトとの違いは、公式サイトにはオフィシャルな情報を掲載しますが、オウンドメディアは学生主体の取り組みや研究といった幅広い情報を掲載する点にあります。
受験生がオウンドメディアに触れることで大学に親近感を覚え、徐々にリピーターとなりファン化する効果が期待できるでしょう。
大学の校風や、取り扱うテーマなどをオウンドメディアで発信することにより、大学の認知度を向上させることはもちろん、大学のブランドイメージを定着させたり、認知度をアップさせたりすることが可能です。
○オウンドメディア活用事例
京都大学のオウンドメディアでは、自由な校風で知られる京都大学の現役生の自由なアイデアや発想を象徴するものとなっています。
SNS
SNSを活用した広報活動は、直接的に資料請求やオープンキャンパスへ誘導するというよりも、大学に対して親近感を持ってもらうことを目的としています。
受験生にとって、大学は遠い存在です。
資料請求やオープンキャンパスなどの行動を起こすとなると、受験生の中にはハードルが高いと感じるケースもあるでしょう。
しかし、身近な存在であるSNSを入り口とすることで、大学を身近なものとして捉えてもらうことができるようになります。
○SNS活用事例
早稲田大学の公式SNSでは多種多様な学生が集う自由な学びを通して、早稲田らしさを追求する姿を発信しています。
学校説明会・オープンキャンパス
学校説明会やオープンキャンパスでも、大学の教授や在校生や卒業生が登壇して話をする従来型のスタイルでは受験生に対する訴求力が弱い傾向にあります。
学校説明会やオープンキャンパスでもまず大学のPR動画などを会場で流し、受験生やその保護者に視聴してもらうというのも効果的な手段です。
学校説明会やオープンキャンパスにPR動画を流す場合、時期に合わせて内容を最適化していくことも検討しましょう。
入試まで日がある春などは、大学に良いイメージを持ってもらい「この大学は楽しそう」と感じてもらうことを目的とします。
実際の受験を検討し始める夏などは入試の概要について概要を入れ、具体的に受験校として意識してもらえる動画を作るようにすることで、受験生の意識を高めることが可能です。
入試がスタートする秋や真っ最中となる冬などは、在校生に受験当日を振り返ってインタビューを入れるなど、受験生を応援するようなメッセージを発信するのも効果的となります。
○学校説明会・オープンキャンパスでのPR動画活用事例
「する」「見る」「ささえる」という観点から、体育やスポーツの力を世の中に伝え、社会に貢献する存在となるために必要な学びを実施しているのが、東京女子体育大学です。
東京女子体育大学では、オープンキャンパスで大学紹介動画を放映しています。
CM・動画広告
動画の使い道として、TVCMや街頭・Web広告などへ出稿することも効果的です。
CMや広告は短期間でたくさんの人に見てもらうことが可能です。また、能動的に情報を調べている人だけでなく、大学のターゲットに合う人を狙って情報を届けることができます。
○CM・動画広告活用事例
中央大学では、キャンパスライフを想像できるような四季折々のキャンパスの映像を織り交ぜながら、学生の姿や施設を紹介するCMです。
映画館で上映前CMとして公開されています。
入試広報動画の作成ポイント
入試広報動画を作成する際には、以下のポイントを押さえておきましょう。
コンセプトや訴求ポイントを明確に
動画を作成する際には「この動画で何を伝えたいか」を決めて、その訴求ポイントを追求しましょう。
動画を作成するうちにあれもこれもとなってしまいがちですが、大切なのはブレない軸です。
受験生や保護者が知りたい情報を簡潔にまとめる
受験生や保護者が知りたいと思っている情報を事前に調査し、コンパクトにまとめましょう。
動画であっても、長々とした話をされると途中で飽きてしまいます。
緩急をつけて飽きさせない
単調な動画は見ていて面白みがなく視聴者が離れてしまいます。動画には緩急をつけて、見ていて飽きないように工夫をしましょう。
効果的に音楽を入れたり、場面展開したりするだけでも印象に残りやすくなります。
ホームページやSNSなどへの誘導を設計する
動画の最後には、公式ホームページやSNSなどに誘導できるよう、導線を用意しておきます。
動画を見た受験生がブックマークしたり、フォローしてくれたりすることがファン獲得への一歩となりますので、この導線はしっかりと準備してください。
また、公式ホームページへのリンクを貼る際にはスマートフォンへの最適化を行っておきましょう。
せっかく受験生が見に来てくれても、体裁が崩れているとそれだけでページから離れてしまいます。
サムネイルを工夫する
多くの視聴者はサムネイルを見て動画をクリックするかを検討します。
サムネイルは全ての入り口ですので、学生の心を掴むものを作成しましょう。
スマホファーストで制作する
動画作成時には、スマホで見ることを前提として制作しましょう。
スマホファーストは今の時代においては当たり前ですから、動画もメインのもののほかに、「縦動画」「ショート動画」を積極的に取り入れるなど、スマートフォンで気軽に閲覧できる施策を入れるのもひとつの方法です。
情報収集や事例の分析をする
自校と同じカテゴリの大学の施策について情報を収集し、参考にするのも有効です。
ただし、模倣はNGですからあくまで参考程度にとどめ、オリジナリティを出していきましょう。
平均視聴時間や離脱率などから分析、改善を行う
動画が公開されたら、そのパフォーマンスを分析します。
「最初の掴みの部分が上手くいっていない」「単調なシーンが続いたから見るのをやめてしまう人が多い」というように、シーンごとに分析し、視聴してくれる受験生が飽きずに楽しく情報を得られるよう、改善していきましょう。
まとめ
入試広報における動画は、受験という重要なテーマが背景にあるからといって堅くなりすぎず、フレンドリーに、楽しく、受験生が気軽に視聴しやすいものを作成するのがコツと考えてください。
学生獲得のためには、極力コンパクトに、インパクトを残せる内容を厳選するのがポイントです。
受験生の興味を引き、受験校として選んでもらえるような動画作成は、受験者数確保につながります。
大学のブランディングの一環として、取り入れてみませんか。
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